【連載5:AFTERⅡ】二人で暮らした部屋…そこに彼が女の子と!?

恋人ハーディンの酷い仕打ちが許せず、アパートを飛び出したテッサ。親友のところ、母のいる実家と、居場所を転々としていたけれど、それも長くは続けられない。母とも和解できないまま、仕方なく一度アパートに戻る決心をする……。世界中の女性たちが熱狂した恋愛小説『AFTER seasonⅡ 壊れる絆』連載第5回。

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尽きない涙……終わらない悲しみ

大学に電話して、あなたが寮にまた戻れるようにさせるから。最初のところから離れた、まったく別の寮に。

翌朝、母はそう言い続けた末に仕事に出かけていった。わたしはキャンパスに行くつもりで家を出たものの、アパートメントへ行くことにした。気持ちが変わらないよう、すぐさまハイウェイの出口を下りてスピードを上げる。

ハーディンの車がないかどうか、敷地に入る前に二度ほど確認した。いないとわかると、わたしは車を停め、雪に覆われた駐車場を急いで横切った。ロビーに着くころにはジーンズの裾もぐっしょり濡れ、寒さに凍えそうだった。ハーディンのことだけは考えまいとしたのに、やっぱり無理だった。

わたしの生活をめちゃめちゃにして、誰も知る人のいないアパートメントに引っ越させるなんて、ハーディンはほんとうにわたしのことを嫌っているにちがいない。わたしをこれほどつらい目に遭わせることができて、さぞかし誇らしく思っているだろう。

震える手で鍵を取り出して部屋のドアに差しこもうとする直前、パニックに襲われて倒れそうになった。

こんな気持ちはいつになったら収まるの? すこしは和らいでくれないの?

まっすぐ寝室へ行ってクローゼットからバッグをつかみ、とにかく服を全部詰めこんだ。ベッドサイドテーブルに目をやると、小さな写真立てがあった。ケンの結婚式前に撮った写真の中でハーディンとわたしがほほ笑んでいる。

あれがすべて偽りだったなんて。ベッドに身を乗り出して写真立てをつかみ、コンクリートの床に投げつける。粉々に割れたので、ベッドを飛び越えて写真を拾い上げ、できるだけ細かくちぎる。息ができずにむせるまで、自分がすすり泣いていたことにも気づかなかった。

本を集めて、空の段ボール箱のなかに積み上げていく。無意識のうちに、ハーディンの『嵐が丘』をつかんでいた。これがなくても、彼は気にしないだろう。わたしが奪われたものを思えば、これでも足りないぐらいだ。

のどがひりひりしたので、キッチンに行ってコップに水を汲んだ。テーブルに座り、こんなことは何も起こらなかったというふりをする。

これから先の日々をひとりで過ごすのに向きあう代わりに、ハーディンが授業を終えてすぐに帰ってくるという想像をする。彼はわたしに笑いかけながら、愛している、きみがいなくてさみしかったと言う。カウンターに抱き上げられて、想いを込めた優しいキスを─

みじめな夢物語は、ドアノブのかちりという音で破られた。ぱっと立ち上がると、ハーディンが玄関から入ってきた。後ろを振り向いているので、彼にはこちらが見えないみたい。

その後ろには、黒いセータードレスを着た黒髪の女子がいた。

「さあ、ここだ……」言いかけた彼は、わたしのバッグが床にあるのに気づいて口をつぐむ。

彼の視線が、アパートメントのなかを一巡してキッチンにまでたどり着く。そこで立ち尽くしていたわたしに気づき、ハーディンは目を見開いた。

「テス?」ほんとうにわたしがそこにいるのが信じられない。そんな声だった。

 

みじめな気持ち……彼はもう新しい彼女と!

わたしの見た目はひどいものだった。だぼだぼのジーンズにトレーナー。昨日からしたままのメイクがにじみ、髪もぼさぼさ。

ハーディンの後ろに立っている女子を見ると、茶色の緩いカーリーヘアがつややかに背中に流れている。メイクは薄いのに完璧だ。でも、そもそもメイクなんて必要ないタイプの顔立ち。やっぱりね。

こんなに恥ずかしいことはない。床に身を沈め、あんな美人の前から消えてしまいたかった。

床の上のバッグを取ろうと手を伸ばすと、ハーディンはようやく彼女がいることを思い出したのか、そちらを振り返り、もう一度こっちを向いた。

「テッサ、ここで何してるんだ?」わたしが目の周りのメイクをこするのを見て、ハーディンはカーリーヘアの彼女にきいた。「ふたりだけにしてもらえるか?」

彼女はわたしを見ると、うなずいて部屋の外の廊下へ出ていった。

「マジかよ、きみがここにいるなんて」ハーディンはキッチンに歩いてきた。ジャケットを脱ぐと白いTシャツがめくれて、日焼けした胸のタトゥーが透けて見える。葉っぱが落ちて枝だけの樹の絵柄が、触ってくれよとわたしをあざ笑う。

あれは、ハーディンの体にあるタトゥーのなかでわたしがいちばん好きなやつだ。いまになって初めて、タトゥーとハーディンの類似点に気づく。どちらも心を持たず、ひとりで立っている。樹のほうには花をまたつける可能性があるけれど、ハーディンにはそれすらない。

「わたし……出ていくところだったの」

ハーディンはどこもかしこも完璧ですてき。ルックスは最高なのに、中身はクズそのものだ。

「とにかく、説明させてくれないか」彼の目の周りにも、わたし以上にひどいくまができている。

「やめて」ふたたびバッグに手を伸ばすと、ハーディンがそれを奪い取って床に落とした。

「二分間。それだけでいいんだ、テス」

ハーディンとここにいるには長すぎる。でも、過去を断ち切って前に進むために必要な二分間だ。わたしはため息とともに無表情をくずさないようにしながら椅子に座った。ハーディンは驚いたようだが、すぐに向かいに腰を下ろした。

 

次回、話を聞いてくれと乞うハーディンに応じることにしたテッサ。しかし売り言葉に買い言葉で二人はまた口論になってしまう……。

 

 

【参考】

 


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