【連載27:AFTERⅡ】「もう出て行って!」去り際に彼は…

「君が無理やり誘ったんだ」ハーディンの言葉にテッサは頭を抱える。酔って判断力の鈍った自分を止めず、流されてセックスしたとハーディンを責めるテッサ。言い争いの中、ハーディンが最後に言い残していったのは……!? 『AFTER seasonⅡ 壊れる絆』連載第27回。

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もう出ていって……こんなこと続けられない

「もう、ほんとに出ていって」わたしは小声で言った。

「手伝おうか?」ハーディンは、ファスナーを上げるのに手こずっているわたしを見て言った。

「いい……自分でできるから」

「ほら」彼は立ち上がって、こちらへ歩いてきた。愛と憎しみ、怒りと平静がぶつかり合う微妙なところを、わたしたちは綱渡りのように歩いている。訳がわからないけど、間違いなく、麻薬みたいに魅力的だ。

髪を持ち上げると、彼はやけに時間をかけてワンピースのファスナーを上げた。心臓がばくばくする。わたしは、ハーディンに支度の手伝いをさせた自分を叱った。

「どうして、ここがわかったの?」質問したものの、答えはわかっていた。

ハーディンは肩をすくめた。州内を横断するほどの移動もなんてことないとでも言いたげだ。「ヴァンスに電話した。当たり前だろ」

「彼が、わたしのルームナンバーを教えたの?」なんだか不愉快。

「違う、フロントが教えてくれた」ハーディンはにやりとした。「おれは口がうまいからな」

そう聞いても、やっぱり不愉快だ。「こんなこと続けられない……ねえ、冗談めかした口をきいて、なれなれしくするのはやめて」わたしは黒のヒールを履いた。

ハーディンはジーンズをつかみ、足を通して引き上げた。「なんでだよ?」

「だって、そばにいてもお互いのためにならないもの」

にやりとする彼のほほに、あのえくぼが浮かびあがる。「それはうそだってきみもわかってるよな」平気な顔でそんなことを言い、彼はTシャツを着る。

「違う、うそなんかじゃないわ」

「うそだよ」

「ねえ、お願いだから、とにかく出ていってくれない?」

「本心じゃないくせに。おれにはわかってる。きみはちゃんとわかってて、ゆうべ、おれをここに泊まらせた」

「違うわ、わかってなんかいなかった。ひどく酔っ払ってたし、ひと晩じゅう、何してるのかわからなかった。あの男にキスしたのも、あなたを部屋に入れてしまったのもぜんぶ」

その瞬間、わたしはぱっと口を閉じた。自分でもうそだと思いたかったけど、ハーディンが目を丸くして奥歯を噛み締めているのを見ると、ほんとうに言ってしまったみたいだ。頭痛が十倍の強さで襲ってくる。もう、自分を平手打ちしたくなる。

「な、なんだって? いま……いま、なんて言った?」

「なんでもない……わたしは……」

「誰かにキスしたのか? 誰だ?」ハーディンはマラソンを走り終えたばかりみたいな、ゆとりのない声で言った。

「クラブで会った、どこかの誰かよ」

「マジで言ってるのか?」

わたしがうなずくと、ハーディンは激怒した。

「いったい─ほんとになんだっていうんだ、テッサ? クラブで男にキスして、それから、おれとここでセックスしたのか? いったい何様のつもりなんだよ?」

彼は両手で顔を覆った。わたしの知っているハーディンなら、いまにも何かを壊すはずだ。

「たまたまそうなっただけよ。わたしはあなたの彼女ってわけじゃないのに、文句言わないで」弁解しようとしたのに、かえって、自分がひどい女みたいな言い草だ。

「ワオ……あきれたね。おれのテッサは、クラブで出会った見知らぬ男にキスなんかぜったいにしない!」

「“おれのテッサ”なんて、どこにもいないのよ」

ハーディンは何度も何度も首を横に振ったかと思うと、じっとわたしの目を見つめて言った。「そうだな、きみは正しいよ。ついでに言っておくが、きみがその男にキスしてたころ、おれはモリーと一発ヤッてたからな」

 

信じられない……去り際の彼の言葉

おれはモリーと一発ヤッてた。おれはモリーと一発ヤッてた。おれはモリーと一発ヤッてた。おれはモリーと一発ヤッてた。おれはモリーと一発ヤッてた。おれはモリーと一発ヤッてた。おれはモリーと一発ヤッてた。おれはモリーと一発ヤッてた。おれはモリーと一発ヤッてた。おれはモリーと一発ヤッてた。おれはモリーと一発ヤッてた。おれはモリーと一発ヤッてた。

ハーディンがドアを閉めてわたしの人生から永遠に消えていったあとも、彼の言葉が頭のなかで鳴り響く。わたしは、階下でみんなと会う前になんとか心を静めようとした。

ハーディンはわたしの気持ちをもてあそんでる。あの無礼な女といまもいちゃいちゃしてる。そんなことわかってたはずなのに。違う、わたしと“つきあってる”あいだだって、あのビッチとセックスしてたかもしれない。

もう、わたしってどこまでばかなの? ゆうべ、愛してるって言われたとき、もうすこしでハーディンを信じそうになった。

愛してるんじゃなかったら、シアトルまでわざわざ車を飛ばしてくるはずがないって思ったのに、現実はぜんぜん違った。彼がやってきたのは、わたしをなかばだましてセックスしたいから。ずっとそうだったし、これからもきっと同じだ。

でも、クラブで会った男とキスしたのをハーディンにしゃべったことでなぜ、罪悪感を覚えるんだろう? それに、彼だけを一方的に責めてしまった。わたしだって彼とセックスしたかったのに。ただ、それをハーディンにも、自分にも認めたくなかっただけだ。

彼がモリーといっしょにいると考えただけで、胃のあたりがむかむかする。早くお腹に何か入れないと、吐くかもしれない。二日酔いってだけじゃなく、ハーディンにそんなことを暴露されたせいで。

よりによってモリーだなんて……彼女のことはへどが出そうになるほど嫌い。ばかみたいな彼女のにやにや顔が思い浮かぶ。ハーディンとまた寝ることが、わたしにとっては拷問にも近い苦しみになるとわかっていて、やっているのだ。

そんな考えが、獲物を狙うコンドルみたいに頭のなかをぐるぐるしてたけど、すっかり気分が落ちこんだところからようやく這い上がり、ティッシュで目尻を拭ってバッグをつかんだ。エレベーターのなかでまたしても感情を抑えられなくなりそうになったものの、一階へ着くころにはなんとか自制心を取り戻した。

「テッサ!」

トレヴァーがロビーの反対側から呼びかけてくる。「おはよう」という声とともにコーヒーのカップが差し出される。

「ありがとう。トレヴァー、ゆうべはハーディンがあんなふうでごめんなさ─」

「いや、いいんだ、ほんとに。彼はちょっと……思いつめて感情的になってるみたいだった?」

もうすこしで笑うところだったけど、吐き気がぶり返してきそうだったのでこらえた。「ああ、うん……感情的、ね」とつぶやいてコーヒーをひと口すする。

トレヴァーはスマホを確認してからポケットに戻した。「キンバリーとクリスチャンがじきに下りてくる」とにっこりする。

「で……ハーディンはまだいるの?」

 

次回、二日酔いに加えて、ハーディンとモリーのことを考えると頭痛がやまないテッサ。そんな彼女をデートに誘ったのは……。

 

 

【参考】

 


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